謎の意見広告

今朝の日経新聞に、変な意見広告が載っていました。「一人一票の国民投票で
首相候補を選ぶ回」とやらが載せた広告です。
要するに首相公選制を導入すべし!と言ってるのかと思ったら正確には違って
いました。彼らの主張は、「憲法改正なしで、国民投票法を改正することで
"国民投票で首相候補を選ぶ制度"を創設すること」だそうです。
「憲法改正なし」「(首相でなく)首相候補を選ぶ」というところがミソです。

彼らのシナリオは、

1.国民投票法を改正し、首相候補を国民が直接選挙で選ぶ
2.与党は国民投票の結果を尊重し、首相候補を首相に選出する

というものです。国民投票の結果で選ばれた首相候補には法的に何の権限も
ないようですが、与党がこの結果を無視すると次の選挙にて民意を無視した
与党議員は落選させられるであろうから、無視するわけにはいかないだろう
との主張でした。

......何か回りくどいですね。首相公選制を導入するなら堂々と憲法改正して
導入すればいいのに。首相公選制は導入したいけど憲法改正はしたくないので
しょうか。何かちょっと見えてきますねぇ。

まぁそれ以前に俺は首相公選制の導入にも懐疑的です。現在の日本の国民は
浮動票が多く、選挙の度に民意がかなり大がかりに変動します。(小選挙区
制だからってのもありますが)
ぶっちゃけた話、俺は日本人に「まともな首相を選ぶ能力」があるかどうか
心配なんです。変な人選んで後悔することになったらやだし、俺は支持して
ないのに変な人が当選しちゃっても困ります。
現在の間接民主制は迂遠ではありますが、極端に悪い人を選ぶ心配もないの
で、相対的にはこちらの方がマシだと思っています。

ところで、似たような組織で「一人一票実現会議」というのがあって、やはり
時々意見広告を出しています。こっちは国会議員の選挙において、有権者数
ごとの議員定数を均等化して一票の価値を平等にしようという主張をしてる
団体みたいです。
この主張自体はまともなんですが、こちらもシナリオはおかしくて、「選挙
区を切り直して一票の価値を平等化する」という手段ではなく、過去の選挙
の違憲審査で違憲であると認めなかった最高裁判官を罷免するという手段を
取っています。
裁判官を罷免しても投票価値は変わらないんですけどねぇ。こちらも何だか
やろうとしていることがおかしい気がしますねぇ。

ついでに言うと、俺はこの「一票の価値を平等化する」ことにも慎重です。
いやもちろん平等であるべきだとは思っていますが、これを実現するため
には「有権者数の多い選挙区の定数を増やす」「有権者数の少ない選挙区
の定数を減らす」しかないわけです。小選挙区制度のもとでは定数は常に
1ですから、「有権者数の多い選挙区を細かく切り分ける」「有権者数の
少ない選挙区を統合する」という形になるでしょうか。

現在議員の総数を増やすのは国民の理解が得られづらいので、有権者数の
少ないところに手を入れる方向にならざるを得ないと思うのですが、これ
地方軽視につながると思うんですよね。そこは考えていないわけでもないと
思うのですが、「都市部選出の議員であっても全国民の代表だから地方の
ことは考えるべきだ」というなら、「投票価値の異なるところで選ばれた
議員であっても全国民の代表だから......」ってことになりませんかね。

とはいえ平等権は憲法で保障されていますので、建前としてはやはり重視
すべきものです。そこでバランスを取るために両院制があると思うんです。
衆議院(いわゆる下院)は人口比例で選出された議員で運営され、参議院
(いわゆる上院)はそれ以外の手段(州などの連邦を構成する単位ごとに
選挙を行うなど)で選出される議員で運営されるべきなんですよね。日本
なら都道府県単位で選ぶとか。昔はそうだったと思うんですが。
それが今では参議院も衆議院と対して変わらない選挙制度になってしまって
いるので、両院制の意義が薄れてしまってると思います。

本来はこの参議院(上院)の意義を憲法で定義するべきだと思うんですが、
日本国憲法にはそこまで言及されていないので、参議院の選挙でも平等権
を考慮せざるを得ない状態に。参議院改革の一環として、この辺も何とか
再定義できるといいんですけど。